「本当に意味のある」会社にお金を残す方法&メリット
1.会社にお金を残すメリット
内部留保(社内留保)、つまり会社のお金をそのまま残すことは、会社を継続していく、あるいは拡大するためにとても大事なことです。会社にお金があるということは、企業の信用にも繋がります。
1-1万が一のための備え
中小企業の場合、会社にお金が無いと融資を受けられないことも多々あります。例えば2020年にはコロナショックでGDPが戦後最大の落ち込みとなり、日本経済が低迷しました。消費が冷え込むことにより不景気となり、利益が落ち込み、内部留保している貯金を切り崩すことになるかと思います。そして会社にお金が無い場合、銀行から融資を考えることになります。内部留保があれば倒産リスクが低く、金融機関からの信頼も厚くなります。このように予想していなかった事態、万が一の経営危機の際も、会社にお金を残すことが重要となります。
1-2会社の信頼・価値が上がる
またB to Bつまり企業間取引において、会社にお金があるということは信用スコアの対象となりえます。
多くの日本企業は、企業間取引の際は長期の取引を前提としています。掛取引や手形取引などを成立させるには、企業間同士の信用・信頼が必要不可欠となります。
そこで企業の信頼性を高める手段として、内部留保が最も有効となります。
会社にお金があるということは、設備投資や研究開発費など、その環境変化に応じた投資を速やかにかつ柔軟に対応出来ます。
逆に会社にお金が無いということは、すぐにその環境変化に対応出来ず、多くの資金調達(負債)をしなければならないため、財務リスクが考えられます。
さらに株式会社であれば、内部留保の蓄積から投資家の信頼を得ることで株式価値が上がり、企業の価値も上がるということが期待できます。
2.会社にお金を残すデメリット
上述したように、会社にお金を残すことは様々なメリットがありますが、その一方でデメリットも生じます。
2-1事業継承を考えている場合のリスク
会社にお金を残すメリットの中で説明したように、内部留保があることで投資家からの信頼を得て株式の価値が上がります。
利益が上がることにより利益剰余金が多くなり、自社株に高い値が付くことは良いことです。しかし事業承継を考えている場合どうでしょうか。
後継者が引き継ぐタイミングで自社株が高い場合、自己資金で買取できなくなる可能性があります。
実際のケースとして、金融機関や会社から多額の借金をして後継者が自社株を引き継ぐということもあります。そして、もしそのまま自社株を買取りせずに放って置くと、相続のタイミングで相続税の対象になります。
2-2お金の使用が会社目的のみに限られる
会社に残すお金の使用目的については、当然会社のみに限られます。
逆に会社のお金をそれ以外、例えば経営者がプライベート目的で勝手に使用することはできません。
会社のお金(利益)を経営者個人がプライベートな目的で使用した場合、税務調査にて追徴税額が課せられます。これは仕事と関連性の無い支出を会社の経費として処理したと判断され、仮想経理扱いとなり、経営者個人への臨時ボーナスというかたちで認められるためです。経営者個人へのボーナスは損金と認定されないため、所得税の他ペナルティ扱いとなり、重加算税が課せられます。
つまり会社にお金を残すということは、お金の自由度が低いということです。
2-3役員貸付金発生の危険性
会社にお金を残すということは、役員報酬を減らすという選択肢が出てくるかと思います。役員報酬が減ることにより生活費が不足するという事態が起きる可能性があり、その場合に会社からお金を借りる役員貸付金が生じます。
会社のお金を経営者個人がプライベート目的で使用した場合、決算書上で”役員貸付金”となります。例えば金融機関などで融資を受ける際、融資したお金が役員貸付金として使用される可能性があるのでは無いかとマイナス評価され、審査上大きく不利になります。
更に役員貸付金は毎期、認定利息をその残高に応じて計上しなくてはなりません。その分、課税所得が引き上げられて法人税が課税されます。
このように役員貸付金は、融資・節税どちらの面でも不利になるため、発生しないようにすることがベターです。
3.経営者(役員)にお金を残す方法と注意点
ここまで会社にお金を残すことのメリット・デメリットは理解して頂けたと思います。では会社にお金を残さず経営者(役員)にお金を残すことは果たしてどうなんでしょうか?経営者(役員)に残す方法やメリット、注意点を解説していきます。
3-1経営者に残す方がお金の使用用途に制限がない
経営者にお金を残す方法は、役員報酬(社長給与)として支払う方法があります。
上述のお金を残すデメリットで説明した通り、会社のお金は会社目的でしか使用出来ないのに対し、経営者個人の役員報酬はプライベートで自由に使うことができます。また、経営者個人のお金を会社に使用(資金を貸付)することも何も問題がありません。どんなに私的な目的で使用しても、役員報酬であれば税務署からのペナルティも受けません。
このように会社にお金を残すより、経営者個人にお金を残すことはお金の自由度が高いと言えます。
3-2税金や社会保険料増加に注意
しかし、経営者(役員)にお金を残すことは注意することも必要です。
税法上”役員報酬”は、会社員などの給与所得と同じ扱いになります。すなわち役員報酬には所得税・住民税がかかり、役員報酬の額が高いほど課税される金額も上がります。また社会保険料(健康保険や厚生年金など)についても、給与所得と同じく源泉徴収が行われます。
経営者個人のお金を会社に使用することは何も問題無いと上述しましたが、決算書上は” 役員借入金”となります。通常会社的には問題の無いことですが、金額が大きいと相続の際に問題になることもあります。この役員借入金を返すよう請求できる権利を貸付金債権と言い、相続の際は相続税がかかるからです。
4.役員報酬を最適化して会社にお金を残す方法と注意点
ここまでで、お金を会社に残すか経営者(役員)に残すか、バランスが大切だということを理解して頂けたかと思います。そこで、役員報酬を最適化して会社にお金を残す方法と、その際の注意点を説明していきます。
4-1役員報酬と会社利益の税負担率を均等にする
役員報酬を決定する際は、会社と経営者(役員)の手もとに残る金額を合計し、最も税金が少なくなるように、個人の税金の負担率と会社の法人税率を比べ、均等にすることが合理的であると言えます。
個人に対する所得税は2021年7月現在、税率が課税所得に対して5%〜45%まで7段階に分けてアップするかたちになっています。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/b02.htm
※財務省 所得税資料 2021年7月時点
法人税の税率については、原則23.2%です。ただし、中小法人と区分けされる法人については所得金額800万円以下の部分に関しては、軽減税率が適用され税率は19%、更に時限的に15%と2段階になります。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/c03.htm
※財務省 法人税資料 2021年7月時点
4-2短期的な見通しで判断しないで専門家へ相談
会社にお金を残す金額を短期的な見通しで判断すると、とても危険です。
中長期的な経営計画をきちんと立て、今後の事業を想定し、投資に必要なお金や運転に必要なお金を把握しておく必要があります。会社設立の際に資本金を用意しますが、会社の運用がそれだけでは厳しくなる場合も見据え、十分な資金確保も必要になってきます。新規で設立した会社は、なるべく会社にお金を残し財務体質を強化しておいたほうが良いでしょう。
このように会社と経営者(役員)にどれくらいお金を残せば良いのかは、税金のバランスを考えるだけではなく、今後の会社経営に大きく関わる重要な決断と言えるでしょう。役員報酬を決める際自分だけで会社の重要な決断をすると考えると、その金額が果たして適切なのだろうかと不安になることもあるかと思います。そのような場合には、専門家に相談することをおすすめします。
5.そもそもなぜお金を残したいのかを考える
上述で会社にお金を残す金額を短期的な見通しで判断しない方が良いと解説しました。税率や会社経営を考えながら、更に経営者(役員)の思いや夢も実現する方向で考えられたら一番良いかと思います。
5-1お金を残す目的を明確にする
会社経営がある程度軌道に載ると、退職金をなるべく多くもらいたいと考える経営者も少なくないでしょう。それは退職後のセカンドライフを想像し、「海外旅行をしたい」「趣味のゴルフを思いっきりやりたい」「孫にいい思いをさせたい。」など理由は様々です。
そこで考えて頂きたいのが、なぜ会社にお金を残すのか目的を明確にすることです。それにはいつまでに、どれくらいの額ということも大事です。
5-2退職金を多くもらいたいなら預金残高にこだわる必要はない
例えば、退職後に「クルーザーを買いたい。」という夢があるとします。その場合、退職後に退職金で買うのでは無く、業務で使用したり従業員の福利厚生として経費で買い、最終的に現物でそのクルーザーを経営者が退職金の一部として譲渡してもらう。という方法もあります。
それは通帳の預金残高には無く資産台帳に記載され、法定耐用年数で減価償却されます。また経費として落とすことで、会社に残しておいた場合の本来かかっていた税金分を減らすことが可能になります。
このように退職金を多くもらいたいのであれば、預金残高にこだわる必要は無いということです。
5-3倒産防止共済や保険を使う
預金残高にこだわる必要が無く、内部留保の税金も下げたい場合におすすめなのが、中小企業倒産防止共済制度です。取引先が倒産したときの危機的状況に貸し付けが受けられるのはもちろん、掛金が損金となるため節税にもなります。解約した場合も掛金が帰ってくるなどのメリットがあります。制度内容としては下記になります。
“取引先企業が倒産した場合、積み立てた掛金総額の10倍の範囲内(最高8,000万円)で回収困難な売掛債権等の額以内の共済金の「貸付け」が受けられる中小企業倒産防止共済法(昭和52年法律第84号)に基づいた共済制度です。”
中小企業庁:https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq16_tosankyosai.htm
またもうひとつおすすめなのが、会社契約で保険を活用することです。プランや内容によりますが、支払った保険料が全額費用になるものもあります。また貯蓄性に優れ、保証と積み立てが出来るプランなどもあります。保険を使うことで、節税をしながら万が一のリスクに備えることが出来ます。保険は様々な会社やプラン・内容があるため、その道のスペシャリストである保険屋に相談することをおすすめします。
6.まとめ
会社にお金を残すことは、会社の信頼や万が一のための備えとしてメリットがある一方で、使用目的が会社に限られることや、事業継承の際の自社株高騰などのデメリットがあることを理解して頂けたかと思います。
役員報酬を決定する際は、目先にとらわれず赤字とならない範囲で設定することを心がけ、役員報酬を下げすぎてしまうと、役員貸付金が発生するリスクがあるためバランスを考える必要があります。
会社経営の今後の継続・拡大に重要なお金。節税の観点だけでは無く、経営計画や万が一のリスク、ライフプランなど、多角的な面から総合的に、会社にお金をどれくらい残すのか、検討しましょう。
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